「私も教えた子がいっぱい自衛隊にいるんです。いっぱい苦しんでいますよ。でもですね、わかってほしいのは、自衛隊に行く子どもたちって、経済的に厳しい子どもたちが行くんですよ。豊かな子どもたちは自衛隊とかなりませんよ」
6月15日、参議院の決算委員会で立憲民主党・古賀千景議員が発言した言葉だ。古賀議員は発言後すぐに撤回したものの、その内容が自衛隊や家族への侮辱、職業差別などと大きな批判を浴びている。
翌16日には、陸・海・空自衛隊出身の地方議員有志が古賀議員に抗議文を提出。
「今回の発言は、自衛隊を志す若者や現職自衛官、自衛官の家族に対する重大な偏見であり、国家と国民のために命をかけて守る自衛官に対する冒涜でもあります」として、正式な説明および謝罪などを求めている。
さて、あなたは今回の騒動、どんな思いで見ていただろう。
政治家の中には「やっと来た! 俺のターン!」とばかりに最大限の「傷つき」や「怒り」をアピールし、攻撃の道具に使っているように見える人も一部いる。
一方で、発言には配慮がないとしながらも、そのような側面はあると冷静に語る人も左右問わずに存在する。
そんな騒動を見ながら、数年前のことを思い出していた。
詳しいことは伏せるが、自衛隊の人――仮にAさんとする――と会い、苦言を呈されたのだ。
その人は私の発信をかなり詳しく知っていた。
例えば2008年頃、ネットカフェ生活者などを支援する困窮者支援団体に自衛隊の勧誘が来ることがあり、これだけ貯金ができるとかこんな資格が取れるなどのセールストークをしていたと聞いて「まるでアメリカの経済的徴兵制のようで驚いた」と書いていることなど。
そのような文章についてAさんは、「決して気分のいいものではない」と口にした。
なぜなら、「経済的徴兵制を彷彿とさせる」という言い方をしているが、それをぶっちゃけて言えば結局仕事がないから、貧しいから、学歴がないから田舎の貧乏人は自衛隊に入るんだというふうにしか聞こえない。あなたたち(あなた、ではなくあなたたちと複数形だった)はそうやって上から目線で語っているが、何かあったら死ぬかもしれないこちらの気持ちがわかるか、そんな人たちのために死ななくてはいけないのか、だけど死んでもあなたたちは「自分たちとは関係ない人」が死んだと思うだけではないか――。そんなことを立て続けに言われ、あなたたちは「差別」している、と言われた。
ショックだった。
北海道出身の私にとって、自衛隊は身近なものだった。地元には駐屯地があったし、帰省すれば、弟の友人や同級生の彼氏が自衛隊ということを当たり前に耳にしてきた。
一方、高校卒業と同時に上京してからは、東京から自衛隊があまりにも遠く「見えない」存在であることに、結構なショックを受けた。それどころか、東京では自衛隊は「〇〇さんちの〇〇さん」という形ではなく、何やら難しげな政治の論争にしか登場しないことにも驚いた。
20年前、反貧困の活動を初めてリベラル系人脈ができてからは、小さな反発を覚えることも多くなった。理由は、リベラル系の人の中には何かにつけ、自衛隊を否定的に語る人が一部いるからだった。
それは、子どもの頃から将来の夢に当たり前に自衛隊があった場所で育った――よって、どれくらい厳しい訓練があるかなども漠然とだが知っている――高卒の私と「東京の高学歴な知識人」の間にある、決して超えられない壁のような気がした。
だからこそ、アメリカの経済的徴兵制を彷彿とさせる、なんて話を書く時は、失礼にならないよう気をつけていたつもりだった。
だけどあちらから見たら私も「安全圏で上から目線で評論してる人間」に過ぎなかったわけである。Aさんと話して、そう突きつけられた。
それでは、実際のところ自衛隊と経済状況はどのような関係があるのか。
私の手元に、タイトルもそのものズバリ、『経済的徴兵制をぶっ潰せ!』というブックレットがある。このブックレットは16年4月30日、早稲田大学で「早稲田ユニオン臨時総会」を兼ねて開催されたシンポジウムを再構成したもので、私も登場している(以下、肩書きは当時のもの)。
今からちょうど10年前だが、当時の状況はというと、14年に集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、15年に安保法制が成立、16年3月に施行。16年1月には、初めて「駆けつけ警護」の任務を負わされた自衛隊が南スーダンに派遣されている。
そこから少し遡る14年5月、政府の有識者会議「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」にて、経済同友会副代表幹事・前原金一氏によってある提案がなされたことをどれくらいの人が覚えているだろう。
その提案とは、奨学金の返済を滞納している若者に、防衛省や消防庁、警察庁でインターンシップをしてもらったら、という内容。
先に08年頃、困窮者支援団体に自衛隊のリクルートが来たことを書いたわけだが、14年当時メディアを賑わせていたのは、大学生の二人に一人が奨学金という名の借金を背負って社会に出ること。何もピンポイントに困窮した若者を狙わずとも、今や学生や元学生が多額の奨学金に苦しんでいるではないか――。ということで、「借金漬けの学生・若者」が発見されたのだ。この発言をした前原氏は、日本で一番手広く奨学金事業を手掛ける「日本学生支援機構」――このブックレットの「はじめに」で、奨学金は「国営闇金」と呼ばれている――の外部政策企画委員でもある。ちなみに15年に出された自衛隊のDMには、露骨に「苦学生求む!」と書かれたものもある。
さて、このシンポジウムは安保法制が施行された1カ月後に開催されているのだが、私はこの日、連載が始まったばかりのある漫画を紹介している。
それは、少年サンデーの『あおざくら 防衛大学校物語』。
主人公は男子高校生。実家は食堂を営んでおり、経済的に余裕はない。進学について悩む主人公だが、奨学金を借りても返すあてがない。そんな時、学校の先生から紹介されたのが防衛大。すぐに自衛隊の先輩が家を訪ねてくれて詳しい説明をしてくれる。
まず、入学金、授業料はすべて無料であること。入学したら公務員の身分になり、手当がもらえること。その額も詳しく書かれていて、毎月11万1800円、夏冬のボーナスが年間で35万2000円、等々――。
その後、『あおざくら』は単行本化するわけだが、1巻の巻末には防衛大OB特別座談会が、3巻の巻末には第五代統合幕僚長・河野克俊海将へのインタビューが収録されている。そこで河野氏は、「もし少しでもご関心をお持ちの方は、ぜひ防衛大学校に進んでいただけたらと思っております」と述べている。
と、これが安保法制が成立した前後にあった、「経済的徴兵制」という言葉を連想させるような出来事だ。
さて、このシンポジウムには、15年に『経済的徴兵制』という本を出版した布施祐仁氏も登壇、ブックレットにもその模様が収録されている。
「格差・貧困と自衛隊入隊の関係」という見出しから始まる文章には、「都道府県ごとの高校卒業後に自衛隊に入隊する人の比率と貧困率および一人当たり県民所得の関連」が示されている。データは07年のもの。以下、引用だ。
「入隊率が高いのは、青森、北海道、宮崎、熊本、長崎、大分、佐賀……と東北、北海道、九州に偏っています。(中略)そして、入隊率が高い上位15県のうち13県は、一人当たりの県民所得が下から15位に入っています。また、貧困率(収入が生活保護の基準額である最低生活費以下の世帯数の割合)が高い上位15県とも10県が重なっています」
やはり、という結果ではないだろうか。布施氏はこの日、実際に自衛隊が任期制自衛官の勧誘のために使っている資料も示してくれた。そこにあるのは自衛隊に入った場合と、民間企業のサラリーマンになった場合の給与比較。
サラリーマンだと例えば月収15万円であれば貯金などは難しいが、自衛隊の場合、衣食住がタダなので毎月6〜10万円が残ること、また病気になった時は部内の病院や医務室で原則無料で治療が受けられることなどがアピールされている。
それだけではない。任期を終えて自衛隊を辞めた場合の再就職もサポートするとアピール。実際、再就職に必要な技能や資格取得にも力を入れているのは知られていることだ。取れる資格は普通免許や大型免許はもちろん、フォークリフトやクレーン、危険物取扱者など。女性限定でブライダルプランナーやネイリストの講習も受けることができる。
なかなか「かゆいところに手が届く」サービスではないだろうか。
ちなみにネットカフェ生活者を支援する「チャレンジネット」でも資格取得の支援があるが、女性に限るとほぼ介護資格くらいという現実がある。それと比較すると自衛隊の支援は非常に手厚い。
このようなことから、自衛隊募集パンフレットには「再就職率100%!」などの言葉が躍るという。
さて、そんな10年前と比較して現在、自衛隊はどのような勧誘をしているのか。
最近のことで思い出すのは、23年、自衛隊が北海道・札幌市内の子ども食堂80ヶ所に中学生以上の就職活動を打診、約10ヶ所を訪れて採用案内を配布したという件だ。詳しくはこちらの記事で読んで頂きたい。
また、2020年には自衛隊への個人情報提出(正確には「自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要な資料の提出を防衛大臣から求められた場合[自衛隊法97条1項及び同法施行令第120条]については、市区町村長が住宅基本台帳の一部の写しを提出することが可能であることを明確化し、地方公共団体に令和2年度中に通知する」)が閣議決定されている。
以降、自衛隊に高校生・大学生の名簿を提出する自治体が増加。
北海道弁護士会の「自衛隊への個人情報提供に関する意見書」によると、20年度に自衛隊に名簿を提供した自治体は全国1741自治体中810自治体で47%だったのに対し、24年度には1152自治体と66%に増えたという。
そうして卒業を控えた高校生、大学生に自衛官からの案内ハガキなどが届くという流れである。
しかし、このような情報提供、違憲ではないかという指摘もあり、裁判も起きている。また、自衛隊への情報提供を希望しない人は自治体に除外申し出すればいいそうだが、そんなこと、この国の何%の人が知っているだろう。また、下手にそんな申し出をしたら「悪目立ち」しないかも心配だ。
ちなみにこの5月に国家情報会議設置法が成立したわけだが、目的のひとつに、各機関が持つ情報を提供させることがあるという。そういうことを考えると、やはり「悪目立ち」は避けたいという気もする。
さて、ざっと書いてきたが、自衛隊に入る動機はもちろん経済的なものだけではない。当然、人の数だけあるわけで、災害で活躍する姿を見て憧れたという人もいれば、国防に関心があってという人もいるだろう。直接聞いた動機としては、「強さ」への憧れを語った人もいるし、家族や周囲に勧められてという人もいた。
これらのことを総合すると、自衛隊に入るのはみんな貧しいというのは事実ではないが、人員不足の中、待遇や再就職のメリットを強調しつつ「恵まれている」とは言えない若者を勧誘している事実はある上、入隊率が高い地域とそうでない地域の経済格差はある、ということは言えると思う。
先に紹介したデータは07年のものだが、布施祐仁氏が6月18日に公開した「自衛隊と貧困との関係をファクトで検証してみた」という原稿には、22年の平均所得データと25年の本籍地ごとの自衛官数を用いて、やはり「平均所得が低い地域ほど自衛隊への入隊率が多い傾向がはっきりと表れている」ことが示されている。
あの質疑をきっかけに、にわかに注目されている自衛隊。今は「政争の具」となってしまっている感があるが、これを機に、建設的な議論になることを望んでいる人は多いのではないか。
例えば五ノ井里奈さんが告発した性被害やセクハラの問題。あのような体質は改善されたのか。また現在、自衛隊内ではどのような再発防止策が取られているのか。
一方で、自衛隊内のいじめもこれまで多くの犠牲者を出してきた。
これらのことも含めて、自衛隊員の命をどうやって守るかについて、もっと議論がなされてほしい。
はからずも現在、アメリカとイランの戦闘終結に向けた覚書署名を受け、自衛隊がホルムズ海峡に派遣されるかどうかが関心を集めている。高市首相はG7後の会見で「現時点で具体的に決まったものはない」と述べているが、果たしてどうなるのか。ちなみに共同通信が6月20、21日に実施した世論調査によると、ホルムズ海峡の安全確保のための自衛隊派遣は「必要ない」が54.7%。
海外派遣という言葉でどうしても思い出すのは、イラク戦争のことだ。
イラクに派遣された自衛隊員のうち、在職中に命を絶った隊員は、実に29人。
そのことを、決して決して、忘れたくない。

9 時間前
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