(CNN) 「率直に言って、我々は厄介な事態に直面している」。フランスのルコルニュ首相は19日にそう述べた。
それはあまりに控えめな表現ではないだろうか。週末に広範囲にわたって発生した暴動を受け、フランスが目の当たりにしているのは都市部の反乱と政治的迷走、そして経済の危機が混ざり合った有害極まりない状況だ。暴動がもたらした物的損害と窃盗による被害額は、数億ドルに上ると推定されている。
週末の騒乱は全国の主要都市で発生。警察が暴動を鎮圧できなかったことを受け、・ヌニェス内相が辞表を提出する事態となった。
パリ、マルセイユ、ボルドーなどの都市では略奪が横行した。一方、2度の世界大戦を生き延びたリモージュ市庁舎は火災により甚大な被害を受け、時計塔の尖塔が崩落した。
週末の暴力事件では約2400人が逮捕された。この数週間前には老朽化した学校や教員不足、そして暗澹(あんたん) たる就職見通しに怒りを抱くフランスの学生たちによる数週間にわたる抗議活動が続いていた。秋学期の開始とともに始まった学生による抗議活動では、6000人以上が逮捕され、100校以上の学校が被害を受けた。
来週末にもさらなるデモが予定されている。11月には労働組合もストライキを行う計画だ。
フランスは、「不満の冬」に直面する中で来春の大統領選挙を迎えることになる。世論調査では、極右候補のマリーヌ・ルペン氏が首位を走っている。
政治の迷走
18日に全国放送のテレビ演説を行ったマクロン大統領は暴力行為を非難したものの、それに対処したり主導権を握ったりするための具体的な方針を示すことはなかった。代わりに政治家たちがこの混乱を利用して政治的利益を得ようとすることに警鐘を鳴らした。それが済むとフランスを離れ、湾岸諸国への3日間の外遊に出発した。
同様にルコルニュ氏も責任のなすり合いを展開した。極左の大統領候補ジャンリュック・メランション氏から政府の警察戦術が「混乱への扉を開いた」との非難が寄せられると、ルコルニュ氏は「暴力をやめようと呼びかけながら、それを犯す者たちに言い訳を与えることなどあってはならない。これこそあなた自身の政治的責任だ」と反論した。
極右政党「国民連合(RN)」の大統領選候補であるルペン氏は移民問題を議論に持ち込むべく、暴力の責任を貧困な「バンリュー(郊外)」に暮らす非行少年たちに帰している。国内の移民人口の多くはバンリューで生活しているとされる。
「わが国は、暴力と無力感という二律背反の板挟みになっている」とルペン氏は主張し、マクロン氏が作り出した「混沌」の中で秩序を回復できるのは、自身の強硬な姿勢だけだと示唆した。
ルペン氏の所属する「国民連合」の党首、ジョーダン・バルデラ氏も火に油を注ぐ。同氏は反ファシスト運動「アンティファ」の民兵組織や極左の過激派グループ、「ブラック・ブロック」の集団をテロ組織に指定するよう要求した。
ブラック・ブロックの集団は、同一もしくは類似の黒い服装にフェイスマスクを着用し、身元を隠しながら抗議活動を行っている。
アナリストたちは現行の政治的分断について、今後も続く公算が大きいと指摘する。 2024年にマクロン氏が呼びかけた前倒し総選挙の後、議会は機能不全に陥った。その結果として起きた分断こそ、深刻化するフランスの危機の核心だと専門家らは見ている。
フランスの政治的中道勢力はすでに消滅し、その隙を突いてRNやメランション氏率いる左翼政党「不服従のフランス(LFI)」は、怒りを募らせる国民を味方につけた。一方、マクロン政権下で相次いで就任した首相たちは、議会で予算案を可決させることができていない。
米ヒューストン大学の近代フランス史教授を務めるロバート・ザレツキー氏は、アトランティック誌への寄稿記事で、「中道派の候補者は大勢いるが、そのほとんどは支持者が相当少ない。最終的には彼らのおかげで、フランスの民主主義にとって最大の脅威となる2人の候補者のいずれかが決選投票に進むことになるだろう」と記している。
債務と衰退主義
現在の危機は、もともと深く分断されていた社会をさらに二極化させた。週末の騒乱に対する衝撃や怒りに加え、敗北主義的な空気も漂っている。最近のイプソス・BVAの世論調査では、回答者の85%が「フランスは衰退している」と答え、98%が現在の国の状況に不満を抱いていることが明らかになった。
次にフランスの政権に就くのが誰であれ、その裁量の余地が狭まるのは避けられない。たとえ安定した連立政権を作り上げることができたとしても、それは変わらないだろう。
フランス経済は停滞している。農家が極度の高温と乾燥に見舞われた夏の打撃を受けた一方で、エネルギー価格が世界的に高騰。インフレに拍車がかかった。
観光業は依然としてフランスにとって重要な収入源だが、ここ2日間で世界中に広まった街頭での暴動の映像は、一部の旅行者の足を遠ざける可能性がある。
フランスの企業は、この先行き不透明な状況と決断力の欠如を懸念している。金利上昇を背景に、今年上半期の投資額は約1%減少した。
何よりも大きな問題となっているのが債務だ。
「フランスは欧州でも最も高い政府債務負担を抱えており、政治的膠着(こうちゃく)状態が続いていることから、債務水準は今後も上昇し続けると予想される」。オックスフォード・エコノミクスの研究者らは7月にそう分析した。
アナリストによると、フランスは来年、過去最高となる3400億ユーロ(約60兆円)の中長期国債を発行せざるを得ない見通しだ。国内総生産(GDP)に占める債務比率は、今年の第2四半期に119%に達し、欧州連合(EU)の目標値の2倍となった。
投資家の不安から、19日には同国の10年物国債利回りが4.9%まで上昇した。
メランション氏がフランス銀行の保有するフランス国債を凍結または帳消しにする計画を掲げていることも、債券市場における同国の評判をさらに悪化させている。
オックスフォード・エコノミクスは、「27年の選挙後も政治の分断状態は長く続く恐れがあり、その結果、フランスの次期政権も依然として財政問題の先送りを続けることになるだろう」と指摘した。これにより、「現在の高い不確実性が長期化し、信頼感や内需の低下が見込まれる」という。
フランス国民から最も敬愛された人物、シャルル・ドゴール将軍はかつて、「威厳なくして、フランスはフランスたり得ない」と宣言した。ドゴールには、フランスの国際的な役割と独立についての壮大な野心があった。
しかし、その長い大統領在任期間中、ドゴールは側近にこうも語っている。「私はできる限りこの芝居を続けていくが、私の後には幻想を抱いてはいけない。物事は元の状態に戻ってしまうだろう」
ドゴールは、フランスを揺るがした1968年の暴動から1年後に辞任した。評論家の中には、当時の暴動を現在の衝撃になぞらえる向きもある。
大統領に就任した際、マクロン氏はフランス人が言うところの「衰退主義」に対する解毒剤と見なされていた。この単語は2016年にフランス語の辞典「ラルース」に初めて掲載された。
「彼(マクロン氏)は、未来への希望に満ちた、極めて前向きで建設的なメッセージを発信している。彼こそが、もう一つのフランスの存在を示している」。ある論評家はそう記した。
あれから10年が経過した現在、複数の世論調査によるとマクロン氏の支持率は15~17%前後で推移している。「衰退主義」という言葉を、国民は変わらず頻繁に口にする。彼らは国家により多くのものを求めるが、苦境に立たされた国家ではそれに応える資源が一段と枯渇しつつあるのが実情だ。
◇
本稿はCNNのティム・リスター記者による分析記事です。

3 時間前
3








English (US) ·
Japanese (JP) ·