福島県知事選は10月25日、投開票され、現職の内堀雅雄さんの当選確実が報じられた。これで4選となる。
内堀さんは3期12年、復興の歩みを進めてきた。一方で、正面から向き合ってこなかった問題もある。
国内外から指摘が相次ぐ甲状腺検査の「過剰診断」問題と、福島を巡る誤・偽情報への対応だ。
筆者(相本)は2013〜2018年、福島に住み、根拠のない情報が県民を苦しめる現実を目の当たりにしてきた。そんな状況を変えたいと、今も福島の取材を続けている。
だからこそ、問いたい。
「内堀さん、この二つの問題に、今度こそ向き合ってくれませんか」

Keita Aimoto
福島県政に携わって四半世紀
内堀さんは長野市出身。東京大学経済学部を卒業後、1986年に自治省(現・総務省)に入った。
2001年に福島県生活環境部次長として着任し、生活環境部長、企画調整部長を経て、2006年に副知事になった。知事は2014年から務めている。
福島の出身ではないが、県政に携わって四半世紀。県庁の中枢を歩み続けてきた人物だ。
2011年3月の東京電力福島第一原発事故と、同年10月の県民健康調査「甲状腺検査」開始時は副知事だった。
そして、知事として過ごした3期12年は、甲状腺がんの「過剰診断」などに警鐘を鳴らす知見や提言が、国内外で相次いだ12年と“ぴたり”と重なる。
国内外で指摘
内堀さんが知事に就任した2014年、甲状腺がんの過剰診断に関する韓国の論文が、米医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された。
超音波検査の普及によって、韓国の甲状腺がんの発見数は大幅に増えたが、死亡率は変わらなかったという内容だ。
放置しても生涯にわたって何の害も出さない病気を見つけてしまう過剰診断が、世界的に注目されるきっかけになった。
2015年には、アメリカの甲状腺学会が甲状腺結節は10ミリを目安に精査を行うとするガイドラインを示した。2016年には福島県小児科医会が、甲状腺検査について「一部見直しを含む再検討が必要」とする声明を出した。
2017年には米国予防医学専門委員会(USPSTF)が、無症状の成人への甲状腺がんスクリーニングは害が利益を上回るとして、推奨しないという見解を示した。
2018年、世界保健機関(WHO)の専門組織・国際がん研究機関(IARC)が原発事故後であっても、甲状腺の集団スクリーニングは推奨しないと提言した。
同じ年、県の甲状腺検査評価部会では、検査方法を改める改善案が出された。
そして、2021年には、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が、福島の子どもたちに甲状腺がんが多く見つかっているのは「放射線被ばくの結果ではなく、むしろ高感度の超音波検査の結果」と指摘した。

Keita Aimoto
止まらない甲状腺検査
このほか、過剰診断の被害防止に取り組む「若年型甲状腺癌研究会(JCJTC)」が2025年、県に検査の見直しを要望。
福島県立医科大学での倫理審査では、審査の対象が2020年からデータ解析になり、検査そのものは建て付け上、審査の枠組みから外れていたことも筆者の報道で明らかになった。
これだけの指摘が、内堀県政の12年の間に積み重なった。それでも、甲状腺検査は立ち止まることなく続いている。
検査対象者に配られる冊子「甲状腺検査のメリット・デメリット」には、今も過剰診断の4文字がない。
国際機関の提言にも触れておらず、生命保険やローン契約の不利な取り扱い、偏見による就職や結婚での不利益といった、過剰診断に関する具体的な害も書かれていない。
こうしている間にも、専門家が指摘する過剰診断の被害は、福島で広がり続けている。

Keita Aimoto
誤・偽情報に正面から向き合わない内堀県政
内堀さんが問題に正面から向き合わない姿勢は、甲状腺検査に限らない。福島を巡る誤・偽情報への対応も、その一つだ。
筆者はこれまで、福島や「情報災害」を巡る問題を100本ほど報じてきた。ニュース記事のほとんどが、“独自”にこだわったものだ。
東京電力福島第一原発の処理水が「Fukushima water(福島水)」と英訳されていたこと。米大手ストックフォトサイトに福島への差別に繋がる画像が並んでいたこと。
科学的根拠のない内容が盛り込まれた映画「こんな事があった」。除染土や再生土を巡って広がる根拠のない情報ーー。
原発事故から15年がたった今も、誤・偽情報は繰り返し生まれている。それでも、内堀さんが公の場で反論することはほとんどない。
県の担当部署に問い合わせても、誤・偽情報の訂正には動かず、「正しい情報を発信していく」と繰り返すのみだ。内堀さんに直接聞こうにも、県政記者クラブに加盟していない記者は、知事定例会見で質問することができないという。
公の場で語られなければ、誤・偽情報は記録にも残らない。誰が何の目的で発信したのか検証されないまま、繰り返されていく。
その先に待っているのは、誤・偽情報の「定着」だ。

Keita Aimoto
「次世代への影響」の誤解は横ばいに
筆者が取材した三菱総合研究所の調査(2026年7月公表)では、原発事故の放射線被曝で「福島県民に次世代への健康影響が起こる可能性が高い」と答えた東京都民は32.5%に上った。
2017年の49.8%から下がり続けてきたが、ここにきて横ばいに転じたのだ。
一方、県産品への忌避感は減り続けている。県の「おいしい・楽しい」のPRは、県産品の風評には効いてきた。だが、健康影響を巡る誤解は、それだけでは解けないことが浮き彫りになった。
必要なのは、誤・偽情報そのものに向き合う姿勢だ。
他県はすでに動いている。鳥取県は2024年、インターネットやSNS上の誤・偽情報を監視する専門チームを設置した。
本来、この対策に最も力を入れるべきなのは福島のはずだ。
福島の人々は原発事故後、「子どもを産めない」などと差別・偏見にさらされてきた。誤・偽情報がもたらす差別・偏見の痛みを、どこよりも知っている都道府県の一つではないだろうか。
甲状腺検査の見直しも、誤・偽情報への対策も、福島こそが全国に先んじて示すべきものだ。
内堀さんは、この二つの課題にどう向き合うのか。3期12年の“沈黙”を、4期目も続けてはならない。
(執筆:相本啓太)

2 時間前
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