学校や家庭に「居場所がない」と感じる子どもたちがいる。繁華街の「トー横」や「グリ下」に集って、犯罪に巻き込まれる場合も。確かに、地域のつながりは希薄になり、子どもが安全な環境で、自由に過ごせる場所は少なくなっている。
さらに災害が起これば、日常は一変する。大人たちも困難に直面する環境で、子どもたちの「居場所」は、被災地でどう取り扱われているのだろうか。
子どもの虐待をなくすために活動を続けるグループ「 #こどものいのちはこどものもの 」のメンバーで、イラストエッセイストの犬山紙子さん、タレントの福田萌さん・ファンタジスタさくらださんが、子どもの居場所づくりにNPOの現場やこども家庭庁職員など複数の立場で携わってきた加賀大資さんに聞いた。
「居場所」は、本人が決めるもの
犬山 まず、「子どもたちの居場所」とは、どのような場所なんでしょうか?
加賀 実際に子どもたちに聞いてみると、大人たちが思う場所が「居場所だと感じられない」という声がありました。つまり、家や学校、児童館といった大人が想像しやすい場所ではなく、ファストフード店やショッピングモールのような場所を居場所だと感じている子どもたちがいるんです。
つまり、他人がその人の居場所を決めることはできないんですよね。居場所というのは「幸せ」のように、本人がどう感じるかによって決まるもの。本人の主観によるものだ、ということが前提になると思ったんです。

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一方で、「居場所づくり」をするのは第三者である大人たちです。私も以前の仕事「NPO法人カタリバ」で、中高生を対象とした居場所づくりの事業を手掛けていました。しかし、「子どもたちの居場所にしたい」という思いが強すぎると、どうしても恩着せがましくなり、かえって子どもたちが離れていってしまう。だから、その思いは微かに持ちながら、関わり方も含めて、子どもたちが過ごしやすい環境をつくることを大切にデザインするのが大切だなと感じました。
「万人にとっての居場所」は存在しないんですよね。だからこそ、子どもたちがそれぞれに自分の居場所を見つけられるよう、地域には多様な選択肢があったほうがいい。
その地域の実情や、子どもたちが何を求めているのかを踏まえながら、地域全体の居場所づくりを考えていく必要があると思っています。
犬山 「居場所作り」と言っても、簡単ではないのですね。それでも、大人が「居場所」を作るのは、どんな点で重要なのでしょうか。
加賀 私は「どこかに」「あちこちに」「意図的に」という3つのキーワードで考えています。
まず「どこかに」居場所は必ず必要です。少子化で子どもの数は減っているにもかかわらず、不登校の子どもは増え続けています。さらに、若年層の自殺率もG7の中で高い水準にある。子どもの数が減っている一方で、日本はこうした状況が深刻になっています。
いわゆる「トー横キッズ」も、その一つだと思います。どこにも居場所がないと感じる子が「ここなら自分を受け入れてもらえる」と集まる。一方で、その先にはさまざまなリスクがあり、そこでの同調圧力から逃れられなくなることもあります。
危険性はありますが、ただその場所を無くしてしまうだけでは、子どもたちの満たされない気持ちは残り続けます。だからこそ、「どこにも居場所がない」という状況をなくし、どこかに自分を受け入れてくれる場所があることが大切です。
次に「あちこちに」。子どもたちに複数の居場所があることは、精神面にも良い影響を与えることがわかってきています。調査でも、自分の部屋だけでなく、地域に「居場所だ」と感じられる場所がある子どもほど、幸福度などが高い傾向が見られました。学校や家で疎外された場合も、「ここがダメでも、ほかに行ける場所がある」と思えるだけで、健やかでいられる部分があると思うんです。
そして「意図的に」。かつては駄菓子屋の前に集まったり、空き地で遊んだりと、子どもたちが自然と集まれる場所が身近にありました。しかし、今はそうした場所が減っています。夏は酷暑で、公園など外で過ごすこと自体が難しい日も増えています。だからこそ、社会が意図的に、子どもたちが集まれる場所をつくっていかなければ、「集まる」こと自体が難しくなっていると思います。
子どもはカフェなどお金がかかる場所に行ったり、電車に乗って出かけたりすることは難しい。行動範囲が限られいるからこそ、地域の中に、無料あるいは低料金で行ける場所がなければ、家や学校以外の居場所を持つこと自体が難しいのではないかと思います。
犬山 加賀さんが最初に子どもの居場所づくりに関わったのは、2011年の東日本大震災の被災地である岩手県大槌町だったそうですね。
加賀 はい。「カタリバ」で、寺子屋のような学習支援と居場所づくりに携わりました。大槌町では当初、「学習支援は必要ない」と言われていました。被災前にも、町内には塾がほとんどなかったし、作っても誰も来ないだろうと。でも、蓋を開けてみると、1学年の9割ほどが来るような場所になりました。勉強をしたり、友達とおしゃべりをしたり、学習と居場所が溶け合っているような場所でしたね。
今回(2026年7月28日)の熊本地震でも人ごとではないと感じて活動を支援しています。

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被災地で後回しになる「子どもの居場所」
犬山 被災地での子どもの居場所づくりについて、熊本では今、どのような状況なのでしょうか。
加賀 私自身は熊本地震の現地に入ったわけではなく、こども家庭庁の担当者と現地をつなぐような、ごく小さな形で関わっただけなんです。
ただ、その中で実際に動いている方々から上がってくる声の多くに、「子どもの居場所づくり」について話しても「子ども支援は今ではない」と言われている状況です。
しかし、子どもたちへの支援はどうしても後回しになり、それが長引くことが多くなっていきます。子どもたちが抱えたストレスが時間を経て現れ、爆発してしまう。精神的なダメージで、元の状態に戻すことが難しくなるということが心配です。
犬山 以前、精神科医の先生から、被災地では子どもたちの不調が1カ月ほど経ってから表れることがあると聞きました。大人から見るといつも通り過ごしているようでも、実は抱えていた不調が後から出てくることがあるそうです。
加賀 大人からすると「いい子」に見えていても、内側に抱え込んでいることがあります。
東日本大震災の被災地では、子どもたちが「津波ごっこ」といって、津波が来たときのような遊びをすることがありました。大人は不謹慎と思ってしまうかもしれませんが、子どもにとっては抱えきれないストレスを外に出す行為でもあるんです。
そこに、被災地における子どもの居場所の重要性があると思っています。家では大変そうな両親の姿を見て、「自分の要望は言えない」と感じる子もいます。「しんどい」「遊びたい」といったことも言い出しにくくなる。
そんなとき、家族とは少し離れた大人に気持ちを出して、それを受け止めてもらえる場所があることは、子どもたちにとって大切です。親にとっても、子どもと少し離れて過ごす時間になります。どうしても後回しにされがちですが、中長期で考えても、子どもたちが安心して過ごせる居場所を持つことには意味があると思っています。
「大丈夫」に見える子どもが、突然いなくなる
犬山 先ほど「ストレスが爆発する」というお話がありましたが、具体的には、子どもたちにどのような変化が表れるのでしょうか。
加賀 突然、学校に行けなくなったり、それまで通っていた場所に来なくなったりすることがあります。感情を激しく表に出すというより、目の前からスッといなくなってしまうような印象です。
溜め込んだものが希死念慮や自傷行為につながるケースも見てきました。一方で、そうした形で表に出ることすらなく、そのまま周囲から見えなくなっていくこともあります。
犬山 自ら孤立していってしまうこともあるんですね。かなり深刻な話です。

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加賀 東日本大震災のときに大槌町で支援していた子どもたちのことを、今でも考えることがあります。
2012〜2013年当時、私たちが関わっていた子どもたちの中には、勉強に意欲的になったり、「自分も町のために何かしたい」と言い始めたりする子がいました。そうした子どもたちの意欲に、支えられた部分もあります。
それ自体が悪かったとは思っていませんし、間違いだったとも思っていません。ただ、今振り返ると、「無理をさせていなかったかな」と思うところがあるんです。その意欲は本当に本人の中から湧き上がったものだったのか、それとも私たちに認めてもらいたくて、少し頑張りすぎていた部分もあったのではないか、と。
大槌町は、もともと大学進学をする人がそれほど多くなく、近くに大学もありません。漁業が盛んな町で、高校を卒業して働くという選択も身近な地域です。そこに震災後、外から多くの支援者が入り、私たちも大学生のボランティアを募って活動していました。子どもたちは、それまで身近にいなかったような大人や大学生と出会うことになります。
そうした出会いをきっかけに、「自分も大学に行ってみたい」と考える子どもたちが増え、大学進学を目指して勉強するようになりました。実際に、その後、町では大学へ進学する子どもたちも増えていったんです。
それは決して悪いことではありません。ただ、大学に進学した後、休学したり、卒業できなかったりする子どもたちもいました。その姿を見たときに、もしかしたら大学進学を目指して無理に頑張り続けて、入学したところで燃え尽きてしまった子もいたのではないか、と思ったんです。進学を応援していた私たちの期待に応えようとして、無理をさせてしまった部分もあったのではないか、と。本当にそれが理由なのかはわかりませんが…。
被災したときに土台となる部分が崩れてしまい、そこから長く支え続けていかなければ、中長期的な回復にはなかなかつながらないのではないか、そう思っています。
支援は「そのとき」だけでは終わらない
さくらだ 被災地で幼少期を過ごした福島出身の友人がいるのですが、当時は全国から「頑張ろう」と応援されている状態だったそうです。子どもはその期待に応えようとして、「頑張らなきゃ」という気持ちを積み重ねていくこともあるんだなと、大人になってからその友人と話したことがあります。
加賀 精神的な負担がすぐに表れる子もいますが、周囲からの支えや期待によって、そのときはなんとか頑張れていた子もいます。それでも、数年後、たとえば大学に進学したタイミングで「やっぱり無理かもしれない」となってしまうこともあるんです。一人では乗り越えきれず、苦しんでいるケースを今でも見ています。
当時子どもだった人たちは、今では社会人になる年代です。そのタイミングで悩みを抱えている人もいます。もちろん、それらすべてが震災とつながっているのか、判断することは難しいです。ただ、私自身はこれまでの経験から、被災地での子ども支援はそのときだけではなく、長い目で続けていく必要があると感じています。
災害が起きる前から「子どもの居場所」を考える
犬山 災害が起きた直後だけでなく、長期的な支援が必要だということを、私たちも知って広めていく必要がありますよね。
ただでさえ、住んでいた町の景色が変わったり、家が被災したり、家族を亡くしたりする子もいます。だからこそ、少しでも普段通りに遊び、「いつもの自分」でいられる場所が必要なのだと思います。
そうした場所を災害が起きてから考えるのではなく、平時からどう確保するのかを考えておく必要もあるのではないでしょうか。
加賀 そうですね。平時から、地域の中にいろいろな居場所の選択肢を持っておくことが大切と先ほどお話ししました。しかし、有事になると、学童や児童館など、普段は居場所になっている施設が、一斉に閉まってしまうことがあります。そこで必要なのは、「有事の居場所づくり」へのフェーズの切り替えです。
こども家庭庁も、各自治体や避難所のガイドラインに「避難所に併設して子どもの居場所を設けてください」と盛り込んでいますが、実際に設置された避難所はほとんどありませんでした。実際にどう被災地で取り組んでいけるのか。「カタリバ」は熊本地震でもいち早く支援に駆けつけて子どもの居場所を作っています。しかし、この重要性をもっと知らせていくことが、これからの課題だと思います。
福田 私は岩手県出身で、大槌町にも友人が住んでいます。震災前に泊まりに行ったことのある家も流されてしまったので、そこで支援をしてくださっていたんだと知って、ありがたい気持ちになりました。大人は被災後も海が好きだけれど、子どもは「海が嫌い」と言っている、という話を聞いたことがあります。大人にとっては、生活や家族との思い出が息づいている海だけれど、子どもにとっては、家や家族、友達との日常を奪った海でもあるのでしょう。
私自身、岩手が被災したことをきっかけに防災士の資格を取りました。主催しているオンラインサロンでも、ママたちと「防災バッグに何を入れるか」「どんな状況を想定して備えるか」といったことを考えています。それでも、実際に災害が起きて初めて「これが必要だった」と気づくことや、想定できなかったことはたくさんあります。そうした経験から、一つひとつ学んで次に生かしていく必要があると思っています。
「子どもの居場所」も、今日お話を聞くまで、私自身想像が及ばないところもありました。だからこそ、災害時にも子どもが安心して集まれる場所が必要だということを私たちが発信し、「避難所にもそういう場所が必要だよね」という認識を広げていく。今後、そうした視点がガイドラインなどにも組み込まれていければいいのかなと思います。
加賀大資さんプロフィール
1987年生まれ。大学卒業後、東京都の中高一貫校で英語教員としてのキャリアを開始。東日本大震災を機に教育系NPOへ転職し、災害や貧困など困難を抱えるこどもの居場所づくりに従事。2022年からこども家庭庁で居場所づくり専門官として政策立案に携わる。居場所づくりの現場と国の政策づくり両面を経験したことで、その間をつなぐ自治体の重要性を感じ、現在は中間支援団体にて、各自治体の居場所づくりに関する政策立案・事業推進を支援する事業を立ち上げ、推進中。複数の自治体の居場所づくりアドバイザーも務める。
#こどものいのちはこどものもの
2018年に東京都で起きた虐待死事件をきっかけに、イラストエッセイストの犬山紙子さんが友人たちに呼びかけて発足したグループ。児童虐待防止に向けてのさまざまな活動を続けている。

こどものいのちはこどものもの提供

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