カフェでケープを使って授乳していたら、人がたくさんいるからと注意された――。
ある親がSNSに投稿した、カフェで授乳しないでほしいと言われたとするエピソードに、反響が広がっている。
この投稿に対する反応は、賛否が分かれている。
反対する人の中には「他人の目がある場所でわざわざ授乳してほしくない」「周りがどう思うかわからないのでやめた方がいい」「店の判断に従うべき」などの声がある。
一方で「授乳は赤ちゃんにとっての食事。自然な行為で恥ずかしいことではない」「本来授乳ケープは、どこでも授乳できるようにするためのもの」など擁護する意見も多数投稿されている。
法律で保護する国も
公共の場での授乳については、これまでも議論が起きてきた。
しかし多くの人がSNSで指摘しているように、授乳は赤ちゃんに栄養を与えるための行為だ。
海外では、公共の場所で授乳する権利を法律で保護している国もある。
アメリカでは50州すべてで、女性が公的・私的を問わずあらゆる場所で授乳できることを認める法律が制定されている。
イギリスでも、公共の場での授乳は法律で保護され、授乳を理由に女性を不利に扱うことは性差別に当たると平等法で定められている。
オーストラリアでは授乳を理由とする差別が法律で禁じられている。カフェやレストラン、公園やショッピングセンター、公共交通機関、職場などで、授乳する権利が守られている。
カナダでも、連邦法や州・準州の人権法の下で、授乳を理由に不利に扱うことは性差別として扱われ得る。周囲の視線が気になる場合はケープなどの使用を勧めているが、着用は義務ではない。
ニュージーランドでは、職場で授乳や搾乳を続けられるよう、雇用主に無給の休憩時間や必要な設備を提供することが法律で求められている。また保健機関は、場所を問わず授乳することは親の権利だと案内している。
イタリア下院では2022年、女性議員が1歳未満の子どもを連れて議場に入り、授乳できるようにするルールが導入された。
これまでに、ニュージーランドやオーストラリア、アイスランド、スペイン、アルゼンチンなどの議場で、議員が子どもに授乳をする姿が報じられてきた。
なぜ授乳を居心地悪く感じるのか
公共の場での授乳がタブー視されるのは、乳房を「性的な対象」として捉える考え方が広く存在してきたことが一因として考えられる。
そのような社会で、授乳をする女性たちには周囲からの冷たい視線や、「目のやり場に困る」「やるなら隠して」といった言葉が向けられてきた。
しかし乳房は、赤ちゃんが必要とする栄養を作り出し、与えるための大切な器官だ。
また「授乳は授乳室で」という声もあるが、授乳室がどこにでも設置されているわけではなく、混んでいてすぐに使えないなどの問題もある。
授乳に対する周囲からの否定的な視線や意見は、子育てをする親にネガティブな影響を与える可能性もある。
1万7000人以上の母親の経験を調査した、イギリスのスウォンジー大学とカーディフ大学の2022年の調査では、周囲の態度やスティグマが授乳しにくい状況を作っていることが明らかになった。
この研究を主導したスウォンジー大学のエイミー・グラント博士は、公共の場での授乳を不適切だとする考え方について「母親を、食事を必要とする乳児の養育者ではなく、性的な存在だという誤って捉えていた」とコメント。
「その結果、授乳しにくい敵対的な環境が生まれ、授乳は母親にとってストレスが大きく、不快なものになっていました」と指摘している。
日本でも法整備を求める声
子育てをする親たちは、こういった公共の場での授乳に対する誤った考えやスティグマと戦ってきた。
ブラジルのサンパウロでは2015年、公共の場での授乳を禁じた企業や団体に対して罰金を科す法案が可決された。
この動きのきっかけになったのは、博物館を訪れた女性が授乳を注意されたことへの抗議活動だった。
親も子どもも生きやすい社会にするためには、乳房や授乳を性的なものとして捉える見方をなくす必要がある。
グラント博士は「私たちは、授乳に対する社会の見方を早急に変えていく必要があります。授乳は、親が行う政治的もしくは性的な行為ではなく、赤ちゃんに栄養を与えるための行為として理解されるべきです。そのためには、授乳している赤ちゃんや母親をじろじろ見たり、舌打ちしたり、否定的なコメントをしたりすべきではありません」とも述べている。
大人が外出先で喉が渇いた時に水を飲むように、赤ちゃんも空腹を感じた時に必要な水分や栄養を摂る必要がある。
また、人前で授乳するなという声は、子育てしている親たちが自由に安心して赤ちゃんを連れ出す権利を奪ってしまうことにもなる。
今回SNSでの反響を受けて、日本でも公共の場で安心して授乳するための法整備を求めるオンライン署名が立ち上がっている。
この署名を立ち上げた助産師の母親は「授乳は、母親のわがままでも、個人的な趣味嗜好でもありません。乳児にとっての食事であり、健康・安心・生命維持に関わる行為です」とつづっている。
署名では、授乳に対する差別的対応を防ぐためのガイドライン作成や、公共施設や飲食店のスタッフのための対応マニュアルの整備などを求めており、こども家庭庁や厚生労働省、自治体などに提出する予定だという。
ガイドラインや法律の整備は、社会全体に授乳に対する正しい知識を広める助けにもなる。

2 時間前
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