この研究の概要
発表
科学誌『Nature』に2026年8月に掲載されました。
研究チーム
モナシュ大学の神経科学者デヴォン・ストリカー氏らのチームです。
調べた対象
幻覚剤の体験がない18〜55歳の健康な成人で、シロシビンを飲んだのは63人です。
調べ方
薬なしの回とシロシビン19mgを飲んだ回の両方で、安静・瞑想・音楽・映像の4場面の脳活動をfMRIと脳波で記録しました。332の脳領域の刻一刻の活動を機械学習のツール「CEBRA」にかけ、一人ひとりの脳の動きを3次元の道筋として描きました。
分かったこと
シロシビンのもとでの脳活動は、その時の場面と体験の質を映す、構造のあるパターンへ組み直されていました。この整った姿は、時間で平均する従来の指標では見逃されていました。
まだ分かっていないこと
今回示されたのは、脳活動のまとまりと体験のまとまりが連れ立って変わるという関係までです。薬を飲んだことを伏せない形の試験で、対象は健康な成人でした。
「幻覚剤は脳を混乱させる」という約10年の定説
私たちの脳には、視覚や注意、自己の感覚などを担う「ネットワーク」があり、ふだんは安定したパターンでやり取りをしています。
これまでの理解では、幻覚剤を使うとこのネットワークがゆるみ、ネットワーク同士がいっせいに話し始めるとされてきました。
脳波も、ノイズが増えて複雑になります。
脳波を記録するあいだ、電極を決まった位置に固定しておくためのキャップです。Credit: Chris Hope / Wikimedia Commons(CC BY 2.0)研究チームの神経科学者デヴォン・ストリカー氏は、脳のネットワークを高速道路にたとえ、幻覚剤のもとではその道路がさまざまな方向へばらけていくと説明します。
ただ、ストリカー氏は「混乱」という説明に満足していませんでした。
人がなぜ意味のある体験をし、気づきや明晰さを得て、それが前向きな心の変化につながりうるのかを、混乱では説明できないからです。
そこでチームは、幻覚剤の体験がない健康な成人63人に、ある種のキノコに含まれる幻覚剤「シロシビン」を19mg飲んでもらいました。
幻覚作用のあるキノコの一種「Psilocybe semilanceata」です(スウェーデンで撮影)。Credit: Arp / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)参加者は、目を閉じた安静、ガイド付きの瞑想、音楽、目を開けて見る雲の映像という4つの場面を、薬なしの回と薬ありの回の両方で体験します。
脳の活動は、服用から約80分後にfMRI(機能的MRI)で、約150分後に脳波で記録されました。
fMRI(機能的MRI)を説明したイラストです。磁場を使い、体(たいていは脳)の代謝の変化を画像にする、体を傷つけない技術です。Credit: explorebiology / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)脳の研究でよく使われる課題をあえて出さなかったのは、課題を与えると体験そのものが途切れてしまうと考えたためです。
ばらけた道路の行き先は、本当にでたらめなのか――チームが確かめたかったのは、そこでした。








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