「あと2年か3年でお店ができなくなってしまう可能性があります。そうなったら、わたしも働いてる家族も、みんなネパールに帰らなければなりません。『定住』がとれて、会社で働き出した甥は日本に残され、お母さんお父さんと離ればなれになってしまうでしょう。32年間日本にいるので、ネパールでの生活より、日本での生活の方が長いです。私にとって、日本はふるさとです」
この言葉は、日本で26年間ネパール料理店を営むネパール人女性・アニーさんのものである。
32年前に来日した彼女は今、大きな脅威に直面している。エスニック料理店などを営む外国人の在留資格「経営・管理」の要件が昨年、突然厳しくなったからだ。
これまでは資本金が500万円あればよかったのが、突然6倍の3000万円に。多くの店から「そんな大金、用意できない」という悲鳴が上がっている。彼女の店も2年後の2028年までに3000万円を用意しなければいけない。
「とても経営が難しくなるので、不安です」
アニーさんは率直に不安を吐露した。
昨年以降、急速に進められている「外国人政策の厳格化」。それはこうしてこの国で地道に生活してきた外国人の暮らしを破壊しようとしている。
そんな状況に抗うため、8月28日、参議院議員会館で「永住の厳格化にNO! 〜日本に暮らす外国人の『永住への道』を奪わないで」が開催された(主催は「移住者と連帯する全国ネットワーク」)。
緊急にこの院内集会が持たれた背景には、8月4日にあるガイドライン案が公表されたことがある。
それは入管庁が出した「永住許可に関するガイドライン案」。
永住許可の要件を厳しくするこのガイドライン案には、「日本人世帯の平均を上回る年収水準」や「将来受け取れる年金額が、平均収入の日本人が厚生年金に30年間加入した場合の水準に達していること」などが盛り込まれた。従来は単身者で年収300万円が目安だったのに、である。
それだけでなく、日本語能力などの条件も追加された。公的に日本語を学べる制度などなかったにも関わらず。
集会で、アニーさんの次にマイクを握ったのはアメリカ出身の男性で「永住者の配偶者」であるモウさん。
アメリカの大学で物理と日本語を専攻し、現在、理系分野の翻訳・通訳の仕事をしているモウさんは日本で暮らしてそろそろ10年。2年前に結婚し、永住資格の取得を目指している。が、「今の厳格化については不安しか感じません」と語り、続けた。
「もし僕が日本に来たとき、このような外国人の生活を何もかも難しくしようとする制度があったとしたら、僕は日本を選んだとは断言できません。日本がいいなと思っている人は、厳格化につれ大幅に減っています。今回のような厳格化は、僕と同様に、素直に日本を選んで、日本で生きていきたい、日本を良くしたい人を、結局、追い払ってしまうでしょう。日本に、選ばれない国になってほしくないです」
続いて発言したのは、アメリカ出身の女性・ノアさん。彼女はすでに永住者の立場だが、「永住許可に関するガイドライン案」が出されたのと同日に出た「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案」に怯える当事者だ。
ちなみにその内容はといえば、入管法上の義務を遵守しなかったり税金や社会保険料の支払いをしなかったり、一定の罪によって拘禁刑となった場合は在留資格が取り消されるというもの(24年に改定法が成立し、来年4月から施行予定)。
こう書くと、「そんなの取り消されて当然」と思うかもしれない。が、その中には在留カードの不携帯も含まれ、また「一定の罪」の中には「住居侵入」「暴行」なども含まれる。暴行というと大変なことに聞こえるが、日常の対人トラブルの延長で起きうることもあるだろう。
というか日本人であれば不起訴となり、罰金で終わるようなことが外国人の場合、「永住資格取り消し」とイコールになってしまうのである。
教育の仕事に関わっているというノアさんは、この運用について知った時、子どもを産むかどうかを迷ったことを吐露した。
周りの海外ルーツの人や永住者の間にも不安が広がっているという。それだけではない。永住者を含む国際カップルが、いわゆる「産み控え」をすることも増えていると感じるそうだ。
「この制度は、私たちの『この国で生きたい』という思いや、『この国で家族を持ちたい』という人生設計を、非常に不安定にしてしまったと思います」
しかし、彼女は日本で子どもを持つ選択をする。現在、子どもも永住資格を取得しているものの、大きな懸念があるという。
「子どもにはいつか、日本で暮らせなくなる可能性について話さなくてはいけません。日本で生まれ育ち、日本人と変わらない教育を受け、日本語を話し、日本で仕事をし、日本で家庭を持ち、日本で生活をしているにもかかわらず、持っている権利は簡単に取り上げられると」
そうしてノアさんは、少しのミスが命取りになってしまう不安について、語った。
「どんな人間でも完璧ではありません。人生でミスをしてしまうことは普通のことです。長い人生の中で、決して大きくないはずのミスでも、私たち永住者にとっては人生が終わってしまう運用の仕方には、当事者として強い不信感があります。間違えてもやり直せば大丈夫という当たり前のことを、私は子どもには教えてあげられません。在留カードの入った財布を忘れて出かけた、年金の支払いが遅れた、そうしたミスで、生活の根本に関わる在留資格を取り上げられる恐れがあるからです」
この集会が開催された日、朝日新聞に「『参政票を取り戻せ』焦った自民、頼った高市氏と外国人政策の厳しさ」という記事が掲載された。
記事によると、昨年の参院選直後、自民党の中では「参政党に行った票を取り戻すべき」という機運が高まったという。そこでトップに選ばれたのが、右派色の強い高市氏。首相となってからはここまで書いたような外国人政策の厳格化を強行しているが、記事ではベテラン議員の「外国人問題を厳しくやれば世論は高市支持で沸く。一気に(衆院)解散も打てるし、参政の票もかっさらえる」という言葉が紹介されていた。
そうして衆院は解散され、2月の衆院選で高市自民党は圧勝。
自民党の政治家にとって、「外国人問題」は選挙に勝つためのコマのひとつにすぎないのだろう。が、それによって影響を受けるのは、一人ひとりの生身の人間である。そのことを、自民党議員たちは想像もしなかったのだろうか? もしそうなら、今すぐに政治家などやめた方がいいのではないだろうか。
高市自民党が勇ましく「厳格化」と叫ぶ背後で、今まさに、多くの外国人が生活を破壊されつつある。長らく日本で働き、子どもを育て、税金を払ってきた人たちの人生設計そのものが潰されそうになっている。集会の日、会場には嘆きながら涙を流す外国人女性の姿もあった。
少子高齢化が進む一方のこの国では、新生児の1割近くが外国籍という地域もすでにある。しかし、このままでは日本は多くの国の人々に見限られていくのではないか。
外国人政策の厳格化は、一時的には政権の人気を高めるかもしれない。が、長期的に見れば滅亡へのシナリオだろう。
気づいた時には手遅れでは取り返しがつかないということを、本当に、肝に銘じてほしいと切実に、思う。

1 ヶ月前
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